フランスシリーズ第3弾 FOCA Universel R を買った話
違う価値観でカメラ作ってるなあ
当たり前だけど、どこのメーカーだって良い写真が撮れるカメラやレンズを作ろうと日々研究に研究を重ね製品を開発している。
「良いカメラ、レンズの条件ってなに?」って聞かれたら「精密な描写」と答えるのが普通。
でもそうは答えない人たちが作ったカメラがこれ。
SEMの2台の使い心地、描写の美しさにすっかり気を良くした私は満を持してフランスカメラの王道 FOCA に手を出したのだった。
日本では法外な値段が付けられ気軽に手を出せないFOCAだが、こちら本国フランスではまだまだ格安。
ネットオークションから蚤の市まで、「おじいちゃんが使っていたものが屋根裏から見つかったので売ります」みたいな感じでお手軽に手に入れることができる。
日本で言うNikon Fみたいなものだろうか。(フランスではNikon Fはアホほど高い)
こっちで中古カメラを買うと未整備は当たり前で、購入店のシールや本人の名前、使い方を書いたメモなんかが本体や付属物に残っていてこれを眺めてカメラの歩んできた歴史に思いを馳せるのもヨーロッパ中古カメラ道の楽しみ方である。
(お菓子でフランス感を演出)
FOCA本体は前期のスクリューマウントと後期のバヨネットマウントで大きく2つに分けられ、バヨネットマウントの方が高価。
レンズの面では、後述するが、FOCA最大のウリのOplarexという正にFOCA成分を濃縮したような50mmレンズであり、これが付いているのと付いていないのでは2倍、いや3倍ほどの価格差がある。
マウントに拘らずレンズも普通のテッサータイプのOplar 50mmでよければ本体レンズ合わせて50ユーロ以下で実用に耐えうる物が見つかるのだが、やはりここは使いやすくFOCAの真価を理解できるバヨネット本体とOplarexで揃えたいのが人情ってものでしょ?
バヨネットマウントモデルには、初代のUniversel、フィルム巻き上げノブの付いたUniversel R、ファインダーを大きくし距離計の二重像も見やすく改良されたUniversel RCがある。
使いやすいのはRCだけども、このモデルはFOCAが死にかけている最後期に生産されており極めて数が少なくフランスでも1500ユーロ以上、日本だと30万円程度で売られているコレクターズアイテムなので、そうなると巻き上げノブの付いたUniversel Rが現実的な選択肢になろうか。
Oplarexが付いて300ユーロ以上、Oplarなら150ユーロ以上ぐらいが相場だろう。
革ケース付きの美品を近所の爺さんからeBay経由で購入。
落札後いきなり携帯に電話がかかってきて「おたくさんの住所がわからんのやけど」とeBayの使い方すらままならない爺ちゃんに電話で懇切丁寧に介護した甲斐もあってかなり状態の良いものを安く手に入れられた。
フランス語分からない人だったらどうやって発送する気だったんだろうか…
ライカコピーというジャンルで語られることの多いFOCAのレンジファインダーだが、実際は真逆。
各所からはライカに対する対抗心というよりはもはや憎しみしか感じられない、ここまで来ると逆に笑ってしまうような作りである。
毎度おなじみフランスカメラの特徴でもあるフランス語オンリーの表示は挨拶代わりといったところか、アクセサリーシューに自信満々に刻まれるFRANCEの文字。
距離系窓の位置は完全にライカと逆にされ、フィルムカウンターはなんと減算式。
そこまでしなくても…大人げない…
シャッターダイヤルは大陸系列のリム式。低速は赤字の40に合わせ前面の低速用ダイヤルで設定するよくあるタイプのやつ。
そもそもOplarexのf1.9なんて明らかにSummicronのf2.0への当て付けじゃないこれ?
レンズラインナップのビゾ付き望遠はテリート400mmに対抗したミロプラー500mm。
フィルムの装填もライカと違い裏蓋を完全に外し、フィルムガイドにはめ込んだ上にまだ金属カバーで固定するというライカ唯一の弱点だったフィルム装填にこれでもかと対抗。
フィルムスプールは正に手芸用のボビンのような凝った作りで美しい(めっちゃ故障しやすそうではある…)
言うまでもないがフランスカメラにあんなフィッシュアンドチップス糞野郎どもの単位であるフィート表示なんてものは存在するはずもなく、フランス最大の発明メートル表示である。
距離計の二重像は予想に反して案外見やすく、M3とバルナックのちょうど間くらいといったところか。
その代わりにビューファインダーが絶望的に見にくく、一体どこまでが写っているのか分からない。
ビューファインダーというかこれでは距離系窓で無理やり写真を撮っている雰囲気である。
見てこの可愛らしいセルフタイマー pic.twitter.com/VFtuyUaRnb
— あばば (@XXXababaXXX) 2018年5月4日
大変かわいらしいセルフタイマーの動きを是非見ていただきたい。
巻き上げ音もゼンマイ特有のコリコリコリコリと小気味よい音がなんとも心地が良い。
本体を持ち上げて振るとカチャンカチャンと音をたてるのを見ると一体精密機械とはなんなのかと考えさせてくれるのはフランスのエスプリだろうか(褒めてない)
実写
光と色。
光と色に対する感覚が明らかにドイツ人や日本人とは違う。
ここまで光にきらめく葉っぱを魅力的に写すカメラは初めてだ。
ホワイトバランスが崩壊していると言ってしまえばそれまでなんだけども、そう言ってしまうのはあまりに勿体無いと思わないだろうか?
彩度は高いのにコントラストは低い実に軽快でシャレた画を作る。
ルノアールやモネの絵に輝く光はこれだったのか、なんて納得してしまった。
どうも彼らの目には我々に感じることの出来ない光と色が映っているらしい。
いかに物体を鮮明に写すか、解像度が、階調が、収差が、、、なんて四苦八苦している横で彼らは全く独自の世界観でカメラを作っていたのだ。
景色を正確に記録するという意味では完全にカメラとして失敗しているが、景色に感じた印象を記録するという意味ではかなりの高次元にいる。
これは勝手な想像なのだが、UniverselやOplarexが発売されたのは1950年代も後期で最早ドイツや日本のカメラの圧倒的な力の前には太刀打ちできないことを見越した彼らは全く独自の自分たちの価値観に沿ったモノを作ろうとしたのではないか。
しかしこのカメラとレンズを海軍に大量に納入していたフランスとは一体なんという国なのか。
これで水面を写せばそれはそれは美しいことこの上ないんだろうけど、軍隊の記録写真まで芸術にしてしまうその精神ではやはりドイツ軍には勝てないだろうななんて思ってしまう。
FOCAをぶら下げてカメラ屋に行くとどうも店主たちの郷愁と愛国心を刺激するようで、「FOCAが好きなのか?」「そうか、こんなのもあるぞ」なんて言ってレンズやアクセサリーをニコニコしながら皆が見せてくれるのも大変おもしろい。
ライカレンズを漁ってる時にはニコリともしなかったおっさんがウッキウキでOplarシリーズを見せてくれる姿に自分の国への愛情が感じられてなにか温かい気持ちになる。
「お前は中々分かる奴だな」なんて言われて色々勧めてくるものだからスポーツファインダーやらなんやらかんやらと集めてしまった。
フランス人の間には未だに熱心なFOCAマニアがたくさんいるようでオークションでも頻繁に取引され、このような研究サイトまで存在する。
あー、これはレンズやら全部集めちゃうだろうなー
クセと言ってまとめてしまうにはあまりにも勿体無い描写は確かに唯一無二だ。
他のフランスカメラと比べても一層飛び抜けた美的感覚を感じさせるFOCAにすっかり魅了されてしまった。
(追記)
家族が増えました