にゃんぶろ

備忘録代わりに色々書きます

フランスシリーズ第4弾 Semflex Otomatic avec Angénieux を買った話

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あーあ、買っちゃった… 

 

この前買ったSemflex Standardが予想以上に楽しかったのがいけない。

軽くて気軽にシャレた画が撮れる二眼レフというのは、若干大げさなイメージの中判カメラの印象をガラッと変えてくれた。

ここのところ鬼のようにカメラを買い漁っているがどれも35mm。

多少重たく大きくても35mmとは違った写真の楽しみ方ができる中判カメラというのは案外カメラ好き的に別腹、これこそ"35mmと中判は別腹"理論なのである。

 

滞在許可証も無事に更新されフランス共和国への愛国心を示すためにもフランスカメラを探す日々であるが、フランスカメラ界の金字塔といえばAngénieux。

前回の記事にも書いたがSemflexシリーズは多種多様なモデルが存在しモデルのバリエーションを全て把握するのは困難なレベルであるが、その中にAngénieuxレンズを備えたモデルが確かに存在する。

が、こちらフランスでも中々お目にかかれる代物ではなく、大抵オークションや蚤の市に出ているのはBerthiot 4.5、たまにBerthiot 3.5が付いたものを見かけるくらいでAngénieuxはまず見ることがない。

日本ではカメラ店の棚にとんでもない値段で飾られているようだけど…

 

(余談だが、Semflexはこの他にもポートレート撮影に特化したBerthiot 150mmを付けたSemflex Studioや大衆モデルSemflex Joie de vivreなんかがあるので探してみると面白い)

 

 

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だが言っても本場。あるところにはあるのだ!

Semflex Otomatic の Angénieux 75mm 3.5 付きモデル。

革ケース、フード、フラッシュ、電球、説明書とすべてオリジナルで揃った良い出物。

 

 

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当時の販促物にもあるように、自動巻きレバーが付いている高級機のOtomaticとノブ巻き上げのエントリー機のStandardが基本のラインナップであり、その中でもOtomaticの上位3.5の中のごく一部にだけAngénieuxレンズが使われているようだ。

それにしても3.8ってなんだ…見たことないぞ…

 

Otomaticシリーズはその名の通り巻き上げレバーをギコギコと倒せば自動で次のコマを装填してくれるのだが、どうにも当時のフィルムと裏紙の厚さが違うらしく自動で巻き上げるとコマ被りが発生してしまうらしい。

幸いなことに巻き上げレバーとシャッターチャージは連動していないので、自動巻きクラッチを解除して裏の赤窓を自分でチェックしながら巻き上げれば問題なく使える。

ローライのようにハイテクだとこうはいかないので技術力がダメな方に勝利した様はまさにフランスらしい。

 

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分解清掃の図。なにこれ胞子?

 

例のごとくフランス人の良品は信用するべからず。

状態こそ悪くはないもののレンズも本体も汚れが酷い…が値段を考えると仕方がない。

むしろ自分で清掃整備すればこそのお買い得品である。

  

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分解清掃は前回のStandardの慣れたものでスムーズに整備し磨き上げた。

結構いい感じでしょ?

 

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Angénieuxレンズで有名なZシリーズはビューレンズに使用され、テイクレンズは謎のX1。

さてその実力は如何ほどか。

 

 

実写

 

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(すべてKodak Portra 160で撮影)

 

空気と色だろうか。

しっとりとした描写に芸術的なボケはスチルというよりはシネに近い。

同じ色彩を感じるフランスカメラでも、前回のFOCAが光と色彩のフランス印象派絵画だとしたら、こちらは空気と色彩のフランス映画と言ったところか。

エストレベルファインダーに映した空気をそのまま切り取って写真に貼り付けたような写りにはどこか湿り気まで感じるような気もする。

特に意識してアンダーで撮ったわけではないが、ファインダーのしっとりした画を見て無意識にそうしてしまったのだろう。

 

 

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Berthiotと比べるとどうだろう。

どちらも色の表現は素晴らしいと思う。

コントラストが高くはっきりと写るのはBerthiot、コントラストが低くしっとり写るのはAngénieuxという印象か。

ボケはAngénieuxに軍配が上がる。しかしフィルムな雰囲気と解像感を両立させているのはBerthiot。

違いこそあれ、そこに優劣は無いと感じたしSemflexは本当に優秀でユニークなカメラだと思う。

ただどれもシャッター周りがあまり強くないのでそこだけが欠点。

 

中々出物に出会えないAngénieux付きSemflexだが今回は非常に運が良かった。

6月の湿っぽい天気もこのカメラにはむしろ相性が良く存分にくすんだ鮮やかな街並みを写してくれた。

夏の夕暮れや晩秋の暗がりなんかも非常に魅力的に写してくれそうで今から楽しみで仕方がない。

 

 

話は変わるが、最近特に感じるのがフランスを写すのにフランスカメラが異常なほどしっくりくるということである。

庭園の緑や人々の装い、メトロの薄汚れた構内、セーヌの煌めき…どれもこれしかないという形で写ってくれる。

日本の街並みをライカで写すとなにか浮足立った違和感を感じるが、ハンブルグの街角にはそれを感じなかった感覚に近い。

その国はその国のカメラで、なんて贅沢この上ない使い方だろうが、どのカメラだってその国のその色で育った人間が作り上げたものなんだからその場で使うのが最もしっくりくるのは当然かも知れない。

よっぽどの富豪でも無い限りそんな使い方は難しいだろうが、今どきわざわざフィルムカメラを使うなんていうのは多かれ少なかれレンズやカメラの持つ独特の味付けを楽しむ酔狂な人間なのだからこういう感覚は忘れないようにしたいものだ。