東独最後の希望 Pentacon Six を買った話
ウエストレベルファインダーという芸術
フィルムカメラの作法は一通り覚えた。
そうなると次に気になるのはなんだろうか。
そう中判だ。
120フィルムに映し出される圧倒的な解像度、しかしながらそれは確かにアナログフィルムカメラによって作り出される。
ポジフィルムと合わせればそれは得も言われぬ美しさだ。
中判写真には臨場感というかなんというか空間のデカさみたいなものを感じる。
よし買おう!(即決)
Pentacon Six TL + Biometar 80mm 2.8
よし買おう!と言っても中判の世界は広い。
だが私が惹かれたのはこのイマイチパッとしない東ドイツ製の中判カメラ。
かなりの問題児である。
1966年に発売されたPentacon SixシリーズのTTL測光対応タイプだ。(対応しているTTLファインダー使ってる人見たことないけどね…)
東ドイツの数あるカメラメーカーを飲み込んで誕生した人民公社ペンタコンが送り出した自信作。
「人民公社」なんて響きが我々西側の人間にとっては異世界すぎて理由もなくワクワクしてしまうのだが、これがまた厄介なもので、競争無き社会では技術の進歩は鈍くなりペンタコンも例に漏れず品質を落としていった。
あれだけ栄華を誇ったドレスデンのカメラ産業も"トラバント"化の波に飲み込まれその中で生まれたのがこのPentacon Six。
東ドイツの宿命か。悲しいなあ…
まともに動くものは少ない。まず第一にシャッター幕。
こいつは異常に弱く、特に1/125が壊れやすいのでシャッターを切ると幕が開きっぱなしになりどうしようもない状態のものがよく見受けられる。
次にコマ被り。これがほんとに酷い。
意気揚々と写真を撮って現像したらコマが重なって台無し…という現像してみるまで分からないエゲツない罠だ。
コマ被りを防ぐために シャッターを押したまま途中まで巻き上げ云々かんぬん… という効果があるんだか無いんだかよく分からない儀式まであるくらいだ。
この2つの問題をクリアする個体は少なく、市場に出回るジャンク品の多さからもそれを察することができるだろう…
他にもミラー腐食やら安っぽい外皮が剥がれまくったりだとか色々あるが割愛。
これらに打ち勝った者のみがツァイスイエナの銘玉Biometarの描写を堪能できるのだ。
恐るべし共産社会…
日本のカメラ屋で整備済みを買うならいざしらず、オークションで買うのはかなり危険。
危険だがついやってしまった…テヘペロ
動作確認済みでケース、レンズフィルター付きで相場の半分くらい。
危険な臭いしかしない商品だが予想に反して美品。シャッター幕もちゃんと動く。
コマ被りは撮ってからしか分からないが、一応動作確認時にちゃんと写真撮影をしたとの説明があったのでその言葉を信じよう。
うん、いいじゃないか。
ダメ元で買ったけど当たりだ!勝ったな!ガハハ
だが落とし穴は思わぬところにあった。
絞りが動かない…
自動絞りだからシャッター切ったら動くのかと思ったら完全に固まってる…
後で聞いたが東独ツァイスの自動絞りは羽根が固着しやすいらしい…
返品も考えたがちゃんと動く本体だけで元は取れていると思ったのでこのまま使おう。
レンズは十分綺麗だから開放専用でもいいや。(ポジティブ)
試写
本当はポジで撮りたかったのだが近所の写真屋にはネガしか無かったので仕方なくポートラ400で。
高いポジ使ってコマ被りしてたら悲しいしね…(貧乏性)
(完全に巻き取る前に裏蓋開けちゃったから微妙に感光してる。中判難しいネ…)
おお!良い!
明らかに解像度が高いし35mmとは違う写り。
3枚目の右側の窓の反射なんてヌルっとしたキメの細かさが大変綺麗だ。
正直、教会のステンドグラスなんて試写向きじゃないが、この難しい被写体を上手に破綻させずに写している。
この時、同時にElmaritを付けたM8とElmarを付けたM3でも撮影していたのだが両者ともラティチュードの広さについていけずステンドグラス部分が多少破綻していた。
まさかP6が一番上手に撮影出来ているとは思わなかったなあ。
というかなによりもコマ被りを全くしていなかったのが一番の収穫!
若干コマ間の長さ違くない?って言うのはやめてあげよう。
彼にしてはよく頑張った。被られるよりよっぽどマシ。
そして何よりもこの美しすぎるウエストレベルファインダーがたまらないじゃないか。
これが見たくて中判を買ったと言っても過言ではない。
スクリーンにザラッと浮かび上がる景色は自分の目よりも美麗かもしれない。
できることなら両目にこのファインダーをくっつけて生活したいくらいだ(狂気)
VRゴーグルならぬWLFゴーグルを作ってもらいたい。
この無骨で虚弱なカメラが脳みそパカっと開けば中にはユートピアがあるなんてロマン以外の何物であろうか。
12枚撮りなので大してお見せできる写真が無いのが寂しいがちゃんと撮れることが分かっただけでも大収穫だろう。いえーい。
開放専用機と化しているのでピーカンの野外で撮影できないのがなんとも悲しいがたぶんこのまま中判にハマったらレンズだけ買い直すでしょう(他人事)
巨大で虚弱なカメラだがなんとも繊細な画を作る名機。
皆さんも当たり個体を求めてペンタコンガチャを引こうではないか!
次はポジを詰めて中判の真髄をじっくり味わいたいなあ。